Homeへ戻る特定非営利活動法人 アフリカ日本協議会:Africa Japan Forum

AJFが開催するイベント・セミナーの案内、報告です。質問、関連情報などをAJF事務局に寄せていただけるとうれしいです


AJFの活動

あなたの寄付がAJFの活動強化につながります
AJFへの寄付について
テーマから探す:
事業から探す:
活動内容から探す:

途上国の保健人材支援に関する日本と米国の役割
日米市民社会による政策レビュー

2010年度に、国際交流基金日米センターの助成を得て行った調査の報告書です。

国際交流基金日米センター公募助成による研究

(特活)アフリカ日本協議会
保健人材アドボカシー・イニシアティブ

※ pdfファイルをダウンロードすることができます >>>
※ 英文の報告書はこちらです >>>

謝 辞

本研究にご協力を頂いた全ての人々に感謝を申し上げます。
本研究の米国側協力団体である「保健人材アドボカシー・イニシアティブ」およびその事務局を務める「人権のための医師団」のご協力に感謝を申し上げます。
本研究を助成してくださった国際交流基金日米センターに心からの感謝を申し上げます。

(特活)アフリカ日本協議会
国際保健部門ディレクター
稲場 雅紀

目次

要約

地球規模での保健人材の不足という課題は、ここ数年、急速に国際保健の中心課題へと躍り出た。これは、2004年の「保健のための人材に関する共同研究イニシアティブ」Joint Learning Initiative on Human Resources for Health の報告書、および2006年の世界保健機関 World Health Organization の世界保健報告などの優れた報告書の存在によるところが大きい。2008年に日本の北海道・洞爺湖で開催されたG8サミットでこの課題が取り上げられたことは、この課題への認識がハイレベルにまで達したことを印象づけた。2010年9月、国連事務総長は「女性と子供の保健に関する地球規模戦略」において、「世界でもっとも貧しい49カ国において、脆弱な女性と子供の命を救うための取り組みへのアクセスを劇的に改善する」ために、保健医療従事者をあと350万人増やすべきとの提言を行った。

過去数年、多くのイニシアティブや報告書が保健システム強化に言及するようになった。例えば、WHOはプライマリー・ヘルス・ケアと保健への普遍的アクセスを重視することとなり、また、米国大統領は「国際保健イニシアティブ」Global Health Initiative を立ち上げ、世界エイズ・結核・マラリア対策基金・GAVIアライアンス(ワクチン・予防接種世界連盟)・世界銀行の共通の保健システム資金拠出プラットフォームが立ち上がりつつある。国際保健の中核的課題として保健システム強化が焦点化されることは、適切かつ必要なことである。しかし、我々は他の側面にも注目しなければならない。すなわち、保健人材の不足以外にも、質の高い保健サービスの実現を妨げる様々な壁があり、また、機能しない保健システムに単に保健人材を供給しても、インパクトは少ないであろうということである。

保健人材不足という危機を乗り越えるための取り組みには、持続的な政治的・政策的な着目、資金投入、また、途上国や先進国の政府、市民社会、民間セクターを含む各種の利害関係者の参画が不可欠である。保健人材危機に対する取り組みが効果的になされ、国際保健においてより良い成果が生み出されるためには、取り組みを拡大し、資金投入をスケールアップする必要がある。最近の努力にもかかわらず、世界的な保健人材不足の課題に関する認識は、他の国際保健戦略への認識に比べて低いままである。国レベルにおいても、世界レベルにおいても、保健人材不足への取り組みは極めて遅く、国レベルで状況を変革するためのニーズに遠く及ばない状況である。

日本と米国は、最近において、保健人材問題に関して特定の目標を掲げた、G8におけるただ二つの国である。これはこの2カ国の、保健人材に関する国際的なリーダーシップの表れであると同時に、世界的な医療従事者不足の問題に効果的かつ包括的に取り組むことがどれほど難しいかを示しているとも言える。

本書は、保健人材問題に関する日本と米国の取り組みをレビューし、これらの努力を強化するために何が必要であるかについて、提言を作成したものである。この提言には、保健人材および保健システムの改善に向けた国際的な援助の強化も含まれる。以下が、提言の要約である。この提言は、本文中においてより詳しく述べられている。

米国への提言

  1. 保健専門職および準専門職に従事する保健医療従事者の訓練と定着に関して、相手国を支援する。この支援は、少なくとも14万人の新規の保健専門職および準専門職の保健医療従事者の訓練と定着をターゲットとして掲げ、特に必要とされている、医師と看護師に関して、訓練し、当事国の国内に配置することが重要である。
    1. 米国政府は、PEPFARが人材育成に関する誓約を完全履行し、なおかつ他の分野における誓約も完全履行するのに十分な資金を拠出しなければならない。そのため、米国の世界におけるエイズ・結核・マラリア対策プログラムに会計年度2009年度から2013年度において拠出することが認められた480億ドルを満額拠出することが必要である。そのためには、2012年度・13年度における予算割当てを増額しなければならない。
    2. PEPFARは、2013年度およびそれ以降に卒業する医師、看護師およびその他の保健専門職および准専門職を増やすための供給経路の形成を支援しなければならない。その方法として、以下のものが含まれなければならない。
      • 学生の教育に従事する講師の追加的な雇用と定着
      • 保健教育機関の物理的な能力の拡大
      • 保健教育機関の運営能力の拡大
      • 通信教育や「Eラーニング」などの革新的な教育戦略の支援
    3. PEPFARは、各国が保健医療従事者を雇用するのに必要な資金と、新規および既存の保健医療従事者の定着戦略を支援するのに必要な資金を提供する必要がある。国内での勤務と関連した奨学金、資金的・非資金的なインセンティブ、保健関連機関の運営の向上、および専門性の向上に向けた機会の提供などが考えられる。
    4. PEPFARは、国ごとに、最も保健ニーズの大きい地域に医療従事者を定着・動員できるようなかたちで保健医療機関に学生をリクルートし、また、教育経験を積ませるための包括的な戦略を形成すべきである。一般的に言えば例えば以下のものが考えられる。
      1. 僻地や都市スラム、その他の顧みられない地域、貧困者および言語的マイノリティを含む他の周縁化された人々を優先して保健教育機関にリクルートすること。
      2. 奨学金、教育上の是正措置、その他、貧困家庭や脆弱な教育的背景を持つ人々を含めて学生を定着させるための方法。
      3. 人々の主要な保健ニーズを反映したカリキュラム改革。
      4. 保健への権利を含む人権教育を、卒前教育機関のカリキュラムに組み込むこと。
      5. 教師に対して、保健サービスへのニーズが最も大きな人々・地域で働くことの重要性を生徒に伝え、就労を促進すること。
      6. 保健専門職従事者が保健サービス業務についてから最初の数年間において、十分な指導、ガイダンス、その他のサポートを提供すること。
    5. PEPFARは、国ごとに、米国下院により課せられた目標およびその実現のためにとられる方法の効率性の確保に関する達成状況をモニターするための情報を公的に提供する必要がある。例えば、
      1. 新規に保健医療従事者が育成されているかどうか
      2. 育成されている新規の保健医療従事者の種類
      3. 定着のための手法とその効果
    6. PEPFARは、保健医療従事者の均等かつ効果的な雇用と定着に関する支援についてモニターするための指標を開発する必要がある。これらの指標は、できる限り、支援対象国で活用されている指標と調和化する必要がある。
    7. PEPFARは、効率的な計画策定とリアルタイムなモニタリングが出来るように、人材情報システムの形成を支援する必要がある。
    8. PEPFARは、保健医療従事者の均等な雇用と定着に関して効果的な方法を開発するための行動調査を行う地元の研究者などを支援し、その調査結果を地域・国家の政策に活用できるようにしなければならない。
  2. WHOの呼びかけに従い、人口1000人あたり少なくとも2.3人の医師・看護師・助産師を配置することを達成すべく、各国を支援すべきである。
    1. PEPFARは、人口1000人あたり2.3人の医師・看護師・助産師という目標、およびその他の職種の保健医療従事者の育成という目標を達成すべく、新規の医療従事者を少なくとも14万人以上教育し定着させることを支援しなければならない。アフリカだけでも、150万人の新規の保健医療従事者が必要である。
  3. 各国が国家保健人材戦略を策定し実施することを支援する必要がある。
    1. PEPFARは、各国の国家保健人材戦略の形成を支援すると共に、それらの戦略がニーズに基づいた、包括的な、経費見積を含む、人権原則を基盤とした、多くの人々の参加に基づいて作られた、なおかつ全体的な国家保健戦略と連携したものになるようにしなければならない。
    2. PEPFARは、これらの計画の実施に向けてPEPFARの支援を受領している国々に対して、技術的および技術的な支援を行わなければならない。
    3. PEPFARは、これらの計画の実施に必要な資金が全額提供されるように努力しなければならない。少なくとも、完全実施に不可欠な資金とのギャップについて、PEPFARが拠出すべきである。
    4. PEPFARは、支援対象国政府が、保健人材に関して、他の開発パートナーと協調して、当事国の国家財政、二国間援助、多国間援助を含め、保健人材戦略を完全活予測可能な形で実施できるような資金拠出戦略を作れるように、支援対象国政府の能力強化を行う必要がある。
    5. PEPFARは、当事国の人材支援に関する技術的ワーキング・グループやその他複数の利害関係者が関与する国家レベルの保健人材関連の機構に対して、保健人材に関する支援が国家の保健人材に関する優先事項に沿った形で行われるように取り組む必要がある。PEPFARはまた、これらの機構の能力強化のために、複数の省庁や市民社会、保健専門職の業界団体や労働組合、民間セクターなど多様なセクターの代表の参加の保障を含む支援を行う必要がある。
    6. PEPFARは、市民社会が国家および地域の保健人材に関する計画策定、モニタリング・評価などに効果的に関与できるように、能力強化を支援すべきである。その中には、国家および地域の保健予算策定プロセスへの参加、政府やその他の機関が責任を持って計画・政策・誓約などを履行するように働きかけをすること、また、保健に関する権利を守るように働きかけをすることなどが含まれる。そこには、国家レベルでの保健人材やより広い保健政策に関する市民社会団体の連合などへの支援も含まれる。
    7. PEPFARは、地方における保健サービスの向上や責任の履行を果たさせるためのコミュニティの努力を支援する必要がある。例えば、保健に関わる地方行政機関への恒常的なモニタリングや、これらの機関との効果的な対話、メディアや法的・政治的なプロセスの関与の促進などである。
    8. PEPFARは、保健に関係する権利や保健人材政策、それに関連するメカニズムやプロセスに関して、公衆を啓発するための市民社会、政府、メディアの努力を支援する必要がある。これを通じて、政府やその他の保健関連機関が、人々の権利や、ニーズに基づいた政策を実現し責任を履行することが可能となるような支援が必要である。
    9. PEPFARは、保健医療従事者の業界団体を支援し、リーダーシップやその他の機能が果たされるようにする必要がある。
  4. 保健医療従事者の安全と労働環境の改善について、前進させる必要がある。
    1. PEPFARは、PEPFARおよびその他全ての米国政府が支援する国際保健プログラムに従事する保健医療従事者の安全な職場環境を保障する政策を形成し履行する必要がある。
  5. 保健医療従事者の訓練、定着、効果的な配置についての目標の達成に努力する必要がある。
    1. PEPFARは、教育および定着への支援以外に、保健医療従事者が、当事国で最も必要な地域、例えば、僻地や、都市スラムなど困難を抱える地域で就労できるようにするために、包括的な戦略を実施する必要がある。例えば、インセンティブ、奨学金、僻地からのリクルート、僻地における保健インフラ投資など。
    2. PEPFARは、保健医療従事者のリクルートのプロセスについて、より効果的・公正かつ透明性の高いものにしていく努力を支援する必要がある。
  6. 途上国の保健医療従事者の雇用については、WHOの行動規範の遵守を促進する必要がある。
    1. PEPFARは、WHOの「保健人材の国際的リクルートに関する世界行動規範」および「海外で教育を受けた看護師の米国へのリクルートに関する自発的倫理規範」を普及し、自発的に守らせるように支援する必要がある。

日本への提言

  1. 日本は、保健人材の問題を国際保健において主流化することに、政治的なリーダーシップを果たすべきである。これについては、以下の事項を含む。
    1. 途上国での保健人材強化に関する国際的なターゲットの設定
    2. 保健人材強化を実現するための、資金的裏づけのある戦略の設定
  2. 日本は保健人材強化のための世界的な戦略を構築する上で以下の時効を確立すべきである。
    1. 保健人材強化は教育・訓練のみで終わるわけではない。保健人材危機に取り組むには、訓練、雇用、均等な配置、定着のサイクルをつくり、質の高い保健医療従事者が多数、公共保健セクターに従事する必要がある。
    2. 当該戦略においては、当事国の中央政府および地方政府の保健行政機関を構築・支援し、これらの機関が高いレベルの知見と能力を持って、保健人材の教育訓練・雇用・定着のプロセスを運営できるようにする必要がある。
  3. 日本は保健人材支援について、日本の経済規模に適合的なレベルの資金拠出を行うべきである。具体的には、少なくとも保健に関する二国間援助を3倍増、多国間援助を2倍増すべきである。
  4. 日本は保健人材支援に関して具体的で明確な資金拠出目標を設定すべきである。
  5. 保健人材に関する包括的な政策形成、実施および評価に関して、意味のある形で多様な関係者の参画を保障すべきである。
    1. 全ての利害関係者の参加の下に政策が形成されなければならない。
  6. 大胆なビジョンと包括的な政策が必要である。この政策は、当事国のニーズおよびギャップを踏まえ、また、現在の国際保健に関する援助動向がもつ欠落点を補うものである必要がある。また、日本の比較優位性および「人間の安全保障」の概念を活用したものである必要がある。

第1部 途上国の保健人材危機への米国の対応の強化
保健人材問題への米国のアプローチに関する課題と提言

1.はじめに

地球規模での保健人材の不足という課題は、以前は国際保健の課題の中で周辺部に甘んじていたが、ここ数年、急速に国際保健の中心課題へと躍り出た。これは、2004年の「保健のための人材に関する共同研究イニシアティブ」Joint Learning Initiative on Human Resources for Health の報告書、および2006年の世界保健機関 World Health Organization の世界保健報告などの優れた報告書の存在によるところが大きい。2007年から2008年にかけて、この課題は最大の注目をあびることとなった。英国が主導した「国際保健パートナーシップ」 International Health Partnership: IHP+ において保健人材は焦点の一つとなった。また、2008年3月、保健人材に関する第1回世界フォーラム the First Global Forum on Human Resources for Health がウガンダ共和国のカンパラで開催され、「カンパラ宣言」と「世界行動アジェンダ」が採択された。2008年に日本のG8北海道洞爺湖サミットにおいて、保健人材の問題はこれまでにないレベルの注目を受け、これが米国の「少なくとも14万人の保健医療従事者を新たに訓練し、定着を支援する」という誓約に結びついた。一方、日本は10万人の保健医療従事者の訓練を誓約した。同年、「保健システムへの革新的な国際的資金創出に関するタスクフォース」 The Taskforce on Innovative International Financing for Health Systems が、MDGsの達成と保健人材への需要を満たすための、十分かつ予測可能な資金の創出に関する検討を行った。さらに、直近の試みとしては、2010年9月、国連事務総長は「女性と子供の保健に関する地球規模戦略」で、「世界で最も貧しい49カ国において、脆弱な女性と子供の命を救うための取り組みへのアクセスを劇的に改善する」ために、保健医療従事者をあと350万人増やすべきとの提言を行った(UN Global Strategy for Women's and Children's Health (2010))。

このように、ここ数年にわたって、保健人材問題への取組みがいろいろな進展をみる中で、さらに広い概念として「保健システム強化」を提唱する報告書やイニシアティブが登場することとなった。例えば、WHOはプライマリー・ヘルス・ケアと保健への普遍的アクセスを重視することとなり、また、米国大統領は「国際保健イニシアティブ」Global Health Initiative を立ち上げ、世界エイズ・結核・マラリア対策基金・GAVIアライアンス・世界銀行の共通の保健システム資金拠出プラットフォームが立ち上がりつつある。国際保健の中核的課題として保健システム強化が焦点化されることは、適切かつ必要なことである。しかし、我々は他の側面にも注目しなければならない。すなわち、保健人材の不足以外にも、質の高い保健サービスの実現を妨げる様々な壁があり、また、機能しない保健システムに単に保健人材を供給しても、インパクトは少ないであろうということである。

途上国ではこれまで、保健人材が極端に不足し、また、極めて不均等な配分と不十分な質と管理状況にあった。この問題が、国際保健の課題の中で十分な地位を得られるかどうかについて、今の時点で判断することは難しい。保健人材問題を解決するためには、途上国と先進国の政府、市民社会、民間セクターなど多様な利害関係者や行為主体が、政治的・政策的な観点から継続的にこの問題を焦点化し、資金を投入し、行動していくことが必要である。いくつかの国では、すでに特筆すべき前進があるものの、全体的には進歩は限定的である。国際保健の前進のためには、保健人材問題への投資を拡大し、前進を勝ち取ることが不可欠である。

2.保健システムにおける「温故知新」

21世紀の幕開け以降、保健や福祉、人権を優先課題に掲げた、様々な国際保健戦略が発表されてきた。それらの戦略やイニシアティブには、例えばミレニアム開発目標MDGs(2000年)、ワクチンと予防接種に関する世界連盟 GAVI(2000年)、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)の設立(2002年)、米国大統領エイズ救済緊急計画PEPFAR(2003年)、世界保健機関WHOと国連エイズ計画UNAIDSの3×5戦略などが挙げられる。こうした賞賛に値する戦略が、人々の健康を促進し、命を救ってきた。しかし一方で、これらの戦略は脆弱な保健システムの改善のためのニーズを満たすために設計されたものではなかった。ケアを提供するという保健医療従事者の不可欠な役割は、これらの保健戦略において周辺的にしか位置づけられてこなかったのである。もし保健システムと保健人材の問題が、当初からこれらのイニシアティブの中により大きく取り上げられていれば、保健における成果はもっと持続的なものとなり、より大きな前進が勝ち取られていたのではないだろうか?また、保健システムは地域および国家のニーズに照らして、より強く、能力の高いものになっていたのではないだろうか?

この状況は変わりつつある。過去数年、世界基金、GAVI、米国大統領エイズ救済緊急計画はそれぞれ、保健人材を含む保健システムをより焦点化した。近年出された国連事務総長の「女性と子どものための地球規模戦略」は、MDG4(子どもの死亡率の削減)とMDG5(妊産婦の健康の改善)に向けて、2011年から2015年までの間に、「350万人の保健医療従事者の増員」という地球規模の保健人材に関する目標を定めた。これは、特に女性と子どもの保健の増進において、熟練した保健医療従事者が緊急かつ死活的に重要であるということを示している。この地球規模戦略に定められた5つの重要な領域のうちの一つが、「十分な数の、熟練した保健医療従事者を核とする、強い保健システム」である。これに向けて、「国家によって制定された保健計画」が「保健サービスと救命のための介入の統合的な提供」を実現するために、この領域にしっかりとした投資が必要である(UN Global Strategy for Women's and Children's Health (2010))。

保健システム強化に向けたこの呼びかけは、現在存在する、コミュニティや見過ごされている人々・課題に保健サービスを届けるための能力を超え、乏しい人的資源や資金を効率的に活用する、「統合された質の高いサービス」を提供できるようなシステムの構築を目指したものである。この「地球規模戦略」は、保健人材の課題に効果的に取り組むための国家保健計画の形成を通じて保健人材の能力を強化することを、政策決定者やその他の決定権者が支援することの重要性について指摘している。「開発パートナーは、各国が保健人材の訓練、定着、動員のための戦略を含む保健計画を形成し、実施することを、調整された協調的な方法で支援しなければならない」(UN Global Strategy for Women's and Children's Health (2010))。

3.保健医療人材問題を国際援助構築の中心へ

保健人材を含む、保健システム強化に向けた努力は、地球規模の保健サービスを再活性化させるものとして行われる必要がある。十分に訓練され、必要なサポートを受け、公平に配置された保健人材によって、保健に必要な物資やサービスへのアクセスの不平等は大きく改善されるだろう。また、保健人材は全ての人、特に保健サービスを殆ど受けていない貧困者に保健サービスの提供を増進する上で不可欠の要素なのである。保健人材を中心においた保健システム強化は、地球規模の保健戦略の設計、および質の高いケアとサービスを供給するための国家的な努力の中心におかれるべきである。各種の世界保健イニシアティブは、それらがどれだけ野心的なものであったとしても、現在の、もしくは新たに発生しつつある保健課題に対応できる適切な人的配置を持つ保健システムの形成に政策的関心と各種資源を充てないのであれば、失敗することは免れない。また、保健システムの形成においては、高い技術を持つ保健医療従事者から、診療所を越えて直接コミュニティにアプローチするコミュニティ・ヘルス・ワーカーまで、保健人材の多様性に対応できるものでなければならない。

これまで、長年にわたって、HIV/AIDSや結核、マラリア、ポリオなど特定疾病に焦点を当てた介入が保健への取り組みの中心となってきたが、現在では、保健システムがより注目されるべきであるというコンセンサスが出来上がりつつある。保健システムは、個別疾病対策のプログラムを適切に機能させる上でも重要なのである。しかし、保健システムがどの程度有効であるかについては、まだ議論の過程にある。特定疾病に焦点を当てた援助は、保健システムの構築を犠牲にして遂行されてきたという批判がある。例えば、保健従事者たちは、これらの援助に、高い賃金、安全な労働環境、福利厚生といった好条件を示されて、引きぬかれてきたのである。一方、保健システムが脆弱で効果が上がらない環境のなかで、垂直的アプローチが保健システムを強化し、援助活動を発展させるために必要なシステムを作り上げてきたという見方もある。これらは、どちらも誤っていない。程度や文脈の違いはあれ、これら双方の力学が作用してきたことは確かである。保健システム強化と個別疾病対策の統合の重要性への認識が深まるにつれ、個別疾病対策のプログラムがどう保健システム強化に有効に作用するかについての認識が深まってきている。

保健システムへの関心の拡大は、国家のオーナーシップの重要性と新たなパートナーシップのあり方への認識の拡大に繋がった。援助効果向上の具体策をとりまとめた2005年の「援助効果に関するパリ宣言」 The Paris Declarationと、援助効果の更なる向上を明確にした2008年の「アクラ行動計画」 Accra Agenda for Actionは、とくに援助国と被援助国間の援助効果を大幅に改善するために、国家や援助機関の必要性とコミットメントを強調している。パリ宣言も、パリ宣言をもとに取りまとめられたアクラ行動計画も共に「開発効果の柱である援助の調和化Harmonization、整合化Alignmentそして結果の重視Managing for Resultsにおいて、モニタリング可能な一連の行動と具体的な指標が伴った成果を上げること」(OECD "Paris Declaration and Accra Agenda for Action")を目指している。これとほぼ同じ時期である2007年にWHOは、『みんなの仕事:健康改善のための保健システムの強化』Everybody's Business: Strengthening Health Systems to Improve Health Outcomesと題する報告書を発表し、保健システムに対する「一般的な理解」と保健システムを強化するのに必要な行動を重要視した。WHOの事務局長は、たとえ国連ミレニアム開発目標が2015年までに達成され、医学とヘルスケアの分野において多くの革新的な進歩があったとしても、これからは「保健システム運営の改善が早急に必要である。」(WHO "EVERYBODY'S BUSINESS") と言及した。

4.一定の効果をみるもニーズに対応出来ていない保健医療人材政策

保健医療従事者問題に関するアドボカシーに取り組む国際的な市民社会のネットワーク「保健医療従事者問題アドボカシー・イニシアティブ」Health Workforce Advocacy Initiativeが発表した報告書『保健のための人的資源の投資による国連ミレニアム開発目標の達成』Achieving the MDGs by Investing in Human Resources for Healthによると、必要な保健医療に従事する労働力の確保が国際、国内レベルで改善されてきている。各国は2000年以降、保健医療従事者の労働力の規模拡大に目立った成果を上げ、いまもなお改善し続けている。

  • マラウイでは、1万人以上の有給コミュニティ・ヘルス・ワーカーが子供たちの健康改善のために国家の「最も強力な武器」として認識されている。「子供たちを襲う病気の診断のための医療チェックリストと、移動のための頑丈な自転車を備えて、彼らは投薬と注射を行い」、診断と治療を行ってきた。マラウイの保健人材の拡大は、「緊急人材プログラム」Emergency Human Resources Program (EHRP)によって行われた。このEHRPには、能力強化と定着のための投資の拡大が含まれていた。最終評価において、EHRPでは、2004年から2009年にかけて公共セクターで53%の保健専門家の拡大に結びつき、また、保健調査の補助員を含め、全ての保健人材職種をあわせて83%の人的拡大を達成した。公共セクターにおける保健人材の人口密度は66%増大した。EHRPの成功とそれ以外の要因により、マラウイから移民する看護婦は、2003年には108人であったのが、2009年には16人へと減少した(Mary O'Neill, Zina Jarrah, Leonard Nkosi, et al. (Management Sciences for Health) & Harold Kuchande & Albert Mlambala (Management Solutions Consulting), Evaluation of Malawi's Emergency Human Resources Programme: EHRP Final Report (July 2, 2010), at 16.)。

  • 保健人材の増大は、保健サービスのカバー率の向上と、不必要な死の削減に結びついた。エイズの治療を提供するスタッフのいる保健施設の数は2003年には24施設であったが、2009年には339施設となった。また、同じ期間に、マラウイの必須保健パッケージを提供する保健施設は全体の9%から74%へと増大した。また、EHRPの調査によると、母子保健に関わる4つの保健サービス、すなわち、(1)周産期ケア、(2)熟練したスタッフの立会いの下での出産、(3)子どもの予防接種の完全化、(4)HIVの母子感染予防のためのネビラピンの供与、のカバー率拡大により、合計13000人の命が救われたという(Health Workforce Advocacy Initiative, "Financial resources for human resources: Strategies to mobilize funding for the health workforce." (August 2010), at 11-12 and Mary O'Neill, Zina Jarrah, Leonard Nkosi, et al. (Management Sciences for Health) & Harold Kuchande & Albert Mlambala (Management Solutions Consulting), Evaluation of Malawi's Emergency Human Resources Programme: EHRP Final Report (July 2, 2010), at 16.)。

  • ザンビアでは、現在米国、オランダ、その他の開発パートナーの支援を受けた「2003年定着スキーム」のパイロット・フェーズにより、69人の医師が3年間、契約を結んで地方で業務を行うこととなった。これらの保健医療従事者は業務手当、住宅手当、児童の教育に関する助成金、契約終了後に訓練を受けるための資金と助成申請資格、およびローンを組む資格を与えられた。米国大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)は30-35人の医師の雇用を支援したが、それによると、この支援によって、5000人が新たにエイズ治療薬へのアクセスを確保することができたという。このプログラムは、その後、看護師や保健科学の指導者、準医師など、他の専門的保健医療従事者も含むこととなった。2008年までに、232人の保健医療従事者がこの定着スキームで雇用され、今後、1600人にまで増員される見通しである。このスキームによって、それまで医師がいなかった54地方行政区に新たに医師が配置された。このスキームに参加するために、海外から少なくとも20人の医師が帰国した(Health Workforce Advocacy Initiative, "Financial resources for human resources: Strategies to mobilize funding for the health workforce." (August 2010), at 13)。

  • エチオピアでは、2003年に拡大保健医療従事者プログラム Health Extension Worker Programme が開始され、2009年までにプライマリー・ヘルス・ケアへの普遍的アクセスを可能にし、そして3万人の医療従事者を1年間訓練し、村々へ配属することによってヘルスケアの拡大を目指している。この結果、「ヘルスケア向けの公的資金が2003年の61%から2007年には87%へと増加した」(Lancet "Extension workers drive Ethiopia's primary health care)。米国の保健NGO「保健マネジメントの科学」Management Sciences for Health (MSH) は、独立した調査を行い、拡大保健従事者Health Extended Workersが感染症を予防し、地域における保健計画や実施へのコミュニティの参加を可能にしていることが分かった、としている。

  • 2005年から2009年にかけて、ルワンダでは、保健システム強化のための3つの改革が行われた。「パフォーマンスに基づく投資」、「コミュニティを基礎とする健康保険」、および「質の確保」である。「パフォーマンスに基づく投資」により、スタッフの動機付けの改善がなされた。同時に、より多くの資金を現場に投入したことにより、ケアの質とアクセスの向上が見られた。また、意思決定に必要な重要な情報の確保も可能となった。特筆すべきは、これらの改革により、(1)結婚した女性の避妊具使用が2005年から2008年にかけて10%から36%に向上した。(2)2005年から2007年の間に、熟練した出産立会人の下での出産が31%から52%に向上した。(3)子どもの死亡率が、2005年から2007年の間に1000人あたり152人から103人へと減少した(Management Sciences for Health, A Vision for Health: Performance-Based Financing in Rwanda (Nov. 2009), at 4-5, 7.)。

このような成功例はあるが、保健医療従事者の増員や抱える課題への取り組み、全体的な保健システムの強化のために、もっと大きな進歩が成し遂げられる必要がある。保健医療従事者の不足は、未だに、質の高いサービスとケアの提供について本質的な障壁となっている。全般的にみて、保健医療従事者の世界的な不足問題は、依然として重大で継続しており、十分な注目を受けていない。先進国と途上国が共に、とくに保健医療従事者問題および広範な保健問題への対応と、保健医療従事者の頭脳流出とに対応するため、医療従事者の世界的な不足を効果的に解決するのに十分かつ適切な方法で手に手を取り合って取り組まなければならない。また、現在とられているマクロ経済政策は、途上国政府が保健人材への適切な投資を行うことを妨げているが、こうした政策の是正のための働きかけがもっと強められなければならない。

5.アメリカ合衆国:HRHは包括的戦略と政策を必要とする

G8参加国のうち、2008年に具体的なHRHの目標を表明したのは日本と米国だけである。これはこの2カ国の、保健人材に関する国際的なリーダーシップの表れであると同時に、世界的な医療従事者不足の問題に効果的かつ包括的に取り組むことがどれほど難しいかを示しているとも言える。ここではアメリカ合衆国政府の保健人材支援の取り組みについて述べる。

アメリカ大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)は、2008年7月に新たな立法措置を行って議会の再承認を受けた際に、その再承認の条件の一つとして、医療従事者や医療従事者の人材不足に悩む国に焦点を当てることを要求された。新しく制定されたPEPFAR法は、新たに以下のことを求めた。「最低14万人の医療専門家と専門助手を養成することを目標に、PEPFARに医療専門家や専門助手を教育しサポートすること。それには、ここでは最も必要とされている医師や看護師の育成も含まれる」。また、PEPFAR新法には、各国の保健人材戦略の策定と実施を支援すること、保健医療従事者の安全と労働環境の改善を支援すること、また、途上国からの人材のリクルートに関して、WHOの行動規範を守ること、が含まれている。

このPEPFAR新法を踏まえて、オバマ政権はグローバル・ヘルスのアプローチの一環として「世界保健イニシアティブ」(GHI)を打ち出した。PEPFARを基盤にしたGHIは保健システムの強化をめざす一方で、医療従事者の分野に重要な投資をしている。その他の重要事項として、GHIの方針書類は保健分野における人材拡充をはかることをうたっている。その方法として、医療従事者へのトレーニング実施、労働者の配置、訓練した労働者の自発性の向上、および助言提供、雇用維持があげられる。また、GHIは養成する医療従事者数や適切に配置されたコミュニティー・ワーカーの数を増加して保健システムの強化を目標にしている。

このような取り組みは単なる感染症への特別介入だけでなく、医療システムの改善や、長期持続性の確保をしのぐ成果の拡大を示している。

「人権のための医師団」Physicians for Human Rights は、米国のGHIおよびPEPFARの保健人材問題に関する取り組みを力強く、包括的な、なおかつ保健人材に関するGHIの誓約を履行しうるアプローチにするために、一連の提言をまとめた。この提言は、保健人材戦略の実施にあたって、「保健医療従事者の訓練と定着にさらなる支援を行いつつ、人材のマネジメントの改善、均等な配置の達成、保健医療従事者の健康と安全の促進を達成する」ことを目指して策定されたものである。

以下の提言は、保健人材問題に関する力強い、全体的な対応を実現するためのものである。PEPFARを通じてGHIを実現することによって、国レベルで保健人材と、これらの人材が働くシステムの強化が可能となる。最も広く、また、持続的な成功をもたらすためには、PEPFARは、保健人材と保健システムに有意な額の投資を行い、前向きな政策を形成・促進し、協力・連携に向けて大胆なリーダーシップを取っていく必要がある。

PEPFARへの提言

  1. 保健専門職および準専門職に従事する保健医療従事者の訓練と定着に関して、相手国を支援する。この支援は、少なくとも14万人の新規の保健専門職および準専門職の保健医療従事者の訓練と定着をターゲットとして掲げ、特に必要とされている、医師と看護師に関して、訓練し、当事国の国内に配置することが重要である。
    1. 米国政府は、PEPFARが人材育成に関する誓約を完全履行し、なおかつ他の分野における誓約も完全履行するのに十分な資金を拠出しなければならない。そのため、米国の世界におけるエイズ・結核・マラリア対策プログラムに会計年度2009年度から2013年度において拠出することが認められた480億ドルを満額拠出することが必要である。そのためには、2012年度・13年度における予算割当てを増額しなければならない。
    2. PEPFARは、2013年度およびそれ以降に卒業する医師、看護師およびその他の保健専門職および准専門職を増やすための供給経路の形成を支援しなければならない。その方法として、以下のものが含まれなければならない。
      1. 学生の教育に従事する講師の追加的な雇用と定着
      2. 保健教育機関の物理的な能力の拡大
      3. 保健教育機関の運営能力の拡大
      4. 通信教育や「Eラーニング」などの革新的な教育戦略の支援
    3. PEPFARは、各国が保健医療従事者を雇用するのに必要な資金と、新規および既存の保健医療従事者の定着戦略を支援するのに必要な資金を提供する必要がある。国内での勤務と関連した奨学金、資金的・非資金的なインセンティブ、保健関連機関の運営の向上、および専門性の向上に向けた機会の提供などが考えられる。
    4. PEPFARは、国ごとに、最も保健ニーズの大きい地域に医療従事者を定着・動員できるようなかたちで保健医療機関に学生をリクルートし、また、教育経験を積ませるための包括的な戦略を形成すべきである。一般的に言えば例えば以下のものが考えられる。
      1. 僻地や都市スラム、その他の顧みられない地域、貧困者および言語的マイノリティを含む他の周縁化された人々を優先して保健教育機関にリクルートすること。
      2. 奨学金、教育上の是正措置、その他、貧困家庭や脆弱な教育的背景を持つ人々を含めて学生を定着させるための方法。
      3. 人々の主要な保健ニーズを反映したカリキュラム改革。
      4. 保健への権利を含む人権教育を、卒前教育機関のカリキュラムに組み込むこと。
      5. 教師に対して、保健サービスへのニーズが最も大きな人々・地域で働くことの重要性を生徒に伝え、就労を促進すること。
      6. 保健専門職従事者が保健サービス業務についてから最初の数年間において、十分な指導、ガイダンス、その他のサポートを提供すること。
    5. PEPFARは、国ごとに、米国下院により課せられた目標およびその実現のためにとられる方法の効率性の確保に関する達成状況をモニターするための情報を公的に提供する必要がある。例えば、
      1. 新規に保健医療従事者が育成されているかどうか
      2. 育成されている新規の保健医療従事者の種類
      3. 定着のための手法とその効果
    6. PEPFARは、保健医療従事者の均等かつ効果的な雇用と定着に関する支援についてモニターするための指標を開発する必要がある。これらの指標は、できる限り、支援対象国で活用されている指標と調和化する必要がある。
    7. PEPFARは、効率的な計画策定とリアルタイムなモニタリングが出来るように、人材情報システムの形成を支援する必要がある。
    8. PEPFARは、保健医療従事者の均等な雇用と定着に関して効果的な方法を開発するための行動調査を行う地元の研究者などを支援し、その調査結果を地域・国家の政策に活用できるようにしなければならない。
  2. WHOの呼びかけに従い、人口1000人あたり少なくとも2.3人の医師・看護師・助産師を配置することを達成すべく、各国を支援すべきである。
    1. PEPFARは、人口1000人あたり2.3人の医師・看護師・助産師という目標、およびその他の職種の保健医療従事者の育成という目標を達成すべく、新規の医療従事者を少なくとも14万人以上教育し定着させることを支援しなければならない。アフリカだけでも、150万人の新規の保健医療従事者が必要である。
  3. 各国が国家保健人材戦略を策定し実施することを支援する必要がある。
    1. PEPFARは、各国の国家保健人材戦略の形成を支援すると共に、それらの戦略がニーズに基づいた、包括的な、経費見積を含む、人権原則を基盤とした、多くの人々の参加に基づいて作られた、なおかつ全体的な国家保健戦略と連携したものになるようにしなければならない。
    2. PEPFARは、これらの計画の実施に向けてPEPFARの支援を受領している国々に対して、技術的および技術的な支援を行わなければならない。
    3. PEPFARは、これらの計画の実施に必要な資金が全額提供されるように努力しなければならない。少なくとも、完全実施に不可欠な資金とのギャップについて、PEPFARが拠出すべきである。
    4. PEPFARは、支援対象国政府が、保健人材に関して、他の開発パートナーと協調して、当事国の国家財政、二国間援助、多国間援助を含め、保健人材戦略を完全活予測可能な形で実施できるような資金拠出戦略を作れるように、支援対象国政府の能力強化を行う必要がある。
    5. PEPFARは、当事国の人材支援に関する技術的ワーキング・グループやその他複数の利害関係者が関与する国家レベルの保健人材関連の機構に対して、保健人材に関する支援が国家の保健人材に関する優先事項に沿った形で行われるように取り組む必要がある。PEPFARはまた、これらの機構の能力強化のために、複数の省庁や市民社会、保健専門職の業界団体や労働組合、民間セクターなど多様なセクターの代表の参加の保障を含む支援を行う必要がある。
    6. PEPFARは、市民社会が国家および地域の保健人材に関する計画策定、モニタリング・評価などに効果的に関与できるように、能力強化を支援すべきである。その中には、国家および地域の保健予算策定プロセスへの参加、政府やその他の機関が責任を持って計画・政策・誓約などを履行するように働きかけをすること、また、保健に関する権利を守るように働きかけをすることなどが含まれる。そこには、国家レベルでの保健人材やより広い保健政策に関する市民社会団体の連合などへの支援も含まれる。
    7. PEPFARは、地方における保健サービスの向上や責任の履行を果たさせるためのコミュニティの努力を支援する必要がある。例えば、保健に関わる地方行政機関への恒常的なモニタリングや、これらの機関との効果的な対話、メディアや法的・政治的なプロセスの関与の促進などである。
    8. PEPFARは、保健に関係する権利や保健人材政策、それに関連するメカニズムやプロセスに関して、公衆を啓発するための市民社会、政府、メディアの努力を支援する必要がある。これを通じて、政府やその他の保健関連機関が、人々の権利や、ニーズに基づいた政策を実現し責任を履行することが可能となるような支援が必要である。
    9. PEPFARは、保健医療従事者の業界団体を支援し、リーダーシップやその他の機能が果たされるようにする必要がある。
  4. 保健医療従事者の安全と労働環境の改善について、前進させる必要がある。
    1. PEPFARは、PEPFARおよびその他全ての米国政府が支援する国際保健プログラムに従事する保健医療従事者の安全な職場環境を保障する政策を形成し履行する必要がある。
  5. 保健医療従事者の訓練、定着、効果的な配置についての目標の達成に努力する必要がある。
    1. PEPFARは、教育および定着への支援以外に、保健医療従事者が、当事国で最も必要な地域、例えば、僻地や、都市スラムなど困難を抱える地域で就労できるようにするために、包括的な戦略を実施する必要がある。例えば、インセンティブ、奨学金、僻地からのリクルート、僻地における保健インフラ投資など。
    2. PEPFARは、保健医療従事者のリクルートのプロセスについて、より効果的・公正かつ透明性の高いものにしていく努力を支援する必要がある。
  6. 途上国の保健医療従事者の雇用については、WHOの行動規範の遵守を促進する必要がある。
    1. PEPFARは、WHOの「保健人材の国際的リクルートに関する世界行動規範」および「海外で教育を受けた看護師の米国へのリクルートに関する自発的倫理規範」を普及し、自発的に守らせるように支援する必要がある。

その他の提言

米国政府の、2014年以降の保健医療従事者の拡大を達成するための戦略はいまだに曖昧なままである。GHIのHRH目標を達成するための効果的なアプローチを考えるにあたり、国際的医療関係者のNGOであるイントラヘルスIntraHealthは最近の包括的なレビューの中で有効なアプローチを提案している(Saving lives, ensuring a legacy: A health workforce strategy for the Global Health Initiative):

  1. 優先国を指定する:米国の世界保健戦略が、PEPFARにおいて「14万人ターゲット」を達成する上でどの国を主要な対象としているのかは、相対的に不明確である。能力に限界がある中で、動員可能な資源を用いて最大の成功を実現するには、「いくつかの優先国を指定し、資源を優先的かつ適切に投入することで、保健人材に関する前進をかちとる必要がある」。
  2. 保健人材に関係する機関の連合体を設立する:保健人材に関係する連合体の設立は、保健人材支援の成功を実現する上で重要だが、必ずしも重視されていない。保健人材に関する連合体は、効率的に資源が投入され、新しいデータや情報を提供されていれば、保健人材に関する状況を改善し、地域のニーズにあった取り組みを行う上で効果的な仕組みとなる。「保健人材に関する政策提言を行うには、地域や業界のリーダーや推進者、関係する各セクターを代表する人材を含む多様なステークホルダーの参加による連合体の形成が必要である。こうした連合体は、地域のニーズに基づいた行動を行うためのプラットフォーム作りや合意形成のために積極的に働くことになるだろう」
  3. 鍵となる指標をセットし進捗を調査する:設定されたゴールを達成するためには、進捗状況を調査することが重要である。しかし、課題が多岐におよび、複雑で測定が難しいため、適切な指標をセットし、進捗を測定して、努力が最も効果的に為されているかどうかをチェックする必要がある。イントラヘルスは、以下の5つの指標を提案している。
    1. 保健医療従事者の総数(人口に比較して)
    2. 地域における保健医療従事者の総数(人口に比較して)
    3. 新規の保健医療従事者の総数(保健医療従事者の人口と比較して)
    4. 保健医療への従事から退く人の割合
    5. 保健医療従事者によって行われる特定の業務の相対数
  4. 米国政府における保健人材に関するリーダーシップの確立:米国国際開発庁(USAID)は歴史的に、保健人材について積極的に取り組んできた。14万人の新規保健医療従事者の育成と定着という歴史的な誓約に際して、これを成功させるためには、新しく、また大胆なリーダーシップが必要である。イントラヘルスは、米国政府内に「保健人材調整官」HRH Coordinatorという役職を設けることを提案している。「保健人材調整官はUSAIDの中に設置されるべきだ。この役職は、政府レベルでの保健人材戦略の形成に責任を持ち、年間約5億5000万ドルにおよぶ予算を執行する責任を持つ。保健人材調整官は、関連省庁間での保健人材開発を調整し、関係機関から進捗報告書を定期的に受け取る」

6. 資金誓約も含めた世界的な保健人材ターゲットの設定を

保健への取り組みの成果を持続的にまた意義ある形で生み出し、国際的な保健人材危機に対処するためには、保健人材に関して具体的な誓約を行った国が米国と日本の二カ国にとどまっているという状況を変えなければならない。保健医療分野の人材問題におけるリーダーシップは、グローバルにも各国単位でも、様々な領域の利害関係者からの、広範囲に渡る一致団結した支持に基づいて、発揮されなければならない。パート1の3でも触れた市民社会ネットワーク「保健人材アドボカシー・イニシアティブ」HWAIは、「もっと果敢なリーダーシップを発揮し、明確な、達成期限を区切った目標を立てること、また、グローバルにも各国単位でも財源を増やすこと」を求めた。2011年1月にタイのバンコクで開かれた第2回保健人材世界フォーラム Global Forum on Human Resource for Healthで、WHO、世界保健人材連盟 Global Health Workforce Alliance、各国政府によって直ちに講じられるべき方法として、以下のような提言がなされた。その中身は以下のとおりである。

1.グローバルな保健医療分野の人材とその財源の問題に関して達成すべき目標

  1. 保健人材に関するターゲットの設定に向けてキャンペーンを進める。このターゲットは、各国の状況を踏まえ、また、2015年までに、少なくとも350万人の新しい保健医療従事者を訓練し、雇用し、地域によって衡平に配置するための資金拠出を含むものである必要がある。
  2. 2015年以降の目標を設定する。この目標は、2006年に算定された、千人当たり4.1人の保健医療従事者という、本来必要な最低限の保健人材需要を満たし、保健人材のギャップを埋めていくものである必要がある。
  3. 2011年から15年までの間に必要な、総額約400億米ドル超の資金コミットメントを公式に行うこと。この資金は、地方で、そして国全体で、保健医療分野の人材が絶対的に不足している全ての国にとって必要な金額である。
  4. 現行のマクロ経済政策は、当事国政府の保健への予算投入を妨げ、結果的に、援助国・援助機関による援助が、政府の予算投入に置き換わってしまうような現状を作り出している。こうした現状を改めるよう、マクロ経済政策を変更することを促進すべきである。
  5. 各々の国、開発パートナー、保健医療分野の人材問題に関する利害関係者が、以上のことを確実に自らが達成すべき目標として担い、そのために協力し合うために、グローバルな保健人材問題に関するキャンペーンを開始すること。

2.各国単位で達成すべき目標とそのための戦略

  1. 保健および保健人材に関する計画を策定し、実施すること。この計画は、保健人材の必要性、明確な根拠、人権の尊重に基づき、また資金見積もりがなされたものである必要がある。また、保健医療従事者、患者、市民社会組織がこれらの計画の策定、実施、モニタリングおよび評価に関与する必要がある。さらに、計画には必要な保健医療従事者の職能や熟練、および保健医療従事者の分布密度に関するターゲットも盛り込むこと。医療従事者の育成、公平な配置、支援、定着に関して国別の目標を設定すること。必要な追加資金を調達すること。
  2. たくさんの利害関係者や部署がうまく関与出来るようコーディネートするために、保健人材に関する管理と政策形成能力を強化すること。あらゆるレベルで説明責任を果たすこと。
  3. 保健医療分野の人材および医療制度の強化のための共同投資を増やすために、世界エイズ・結核・マラリア対策基金、GAVIアライアンス(ワクチン予防接種世界連盟)、米国大統領エイズ救済緊急計画といった、様々なグローバルな保健医療イニシアティブ(GHIs)と共働する機会を最大限活用すること。
  4. あらゆる職種の保健医療従事者の教育、雇用、衡平な配置のために、また、保健医療従事者が良質なサービスを提供し、継続的に専門能力の向上に励み、長期に渡り持続的にそれを保持する気を起こさせるために、諸々の制度を改善すること。

3.地球規模の保健人材不足という課題に対して立ち上がれ

保健医療従事者の世界的な不足は、途上国の保健と開発に関する最大の課題の一つである。保健医療従事者の慢性的な不足に関して、大きな注目が集まり、一部の国では成果も見られるが、地域のニーズを満たし、途上国において不必要な苦難を克服するためには、もっと多くのことが成し遂げられる必要がある。米国および日本の保健人材に関する誓約は、保健医療従事者の不十分な供給、配置、定着に取り組むための世界的なリーダーシップの見本を示しているが、これらの努力は、より強化されなければならない。米国と日本は、これらの努力をより拡大することで、保健人材に関する世界的な危機により効果的に取り組む世界的なリーダーシップを確立することが出来る。また、そのプロセスにおいて、保健人材に関して有意義な成果を上げている途上国のリーダーシップと連携することによって、保健人材不足という課題を克服し、全ての人々が質の高い保健サービスを受けることが可能な世界、数多くの人々の命を守る世界を実現することに貢献することができるのである。


第2部 途上国の保健人材危機への日本の対応の強化
保健人材問題への日本のアプローチに関する課題と提言

課題1:日本は保健人材問題に国際的リーダーシップを発揮せよ

2000年以降、日本は国際的な保健政策におけるトレンド・セッターとしての役割を果たしている。2000年に日本の南西部にある沖縄県で開催されたG8沖縄サミットにおいて、日本は「沖縄感染症対策イニシアティブ」を発表、また、感染症対策に迅速に資金を提供する国際的な基金を設置する構想を主導した。その結果、感染症対策は国際保健において主流化され、また、基金構想は世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)として結実した。

2007年以降、疾病・分野別の対策と包括的保健システム強化の二項対立で国際保健戦略に関する論争が活発化する中、日本は2008年のG8洞爺湖サミットに向けたプロセスで、保健専門家会議を招集し、「洞爺湖国際保健行動指針」を完成させた。

途上国における保健人材の不足や公共保健セクターからの人材流出によって、途上国の保健上の危機が深刻化していることについては、以前から注目されてきた。2006年にはこの危機に取り組むための共通プラットフォームとして世界保健人材連盟(GHWA)が設立され、2008年3月にはウガンダで第1回保健人材世界フォーラムが開催され、「カンパラ宣言」が採択された。しかし、途上国の保健人材の増員に関する世界的なターゲットの設定や、それに向けた資金・技術の動員、国際的な戦略の形成などは行われていない。英国が主導した国際保健意パートナーシップIHP+など、保健システム強化のための援助効果拡大のイニシアティブは見られるものの、米国、日本など主要な援助国の一部は参加していない。保健人材強化のための援助は、各ドナーが、必ずしも協調することなく二国間援助で行われているに過ぎない。

日本は、カンパラでの保健人材世界フォーラム以来GHWAを一貫してサポートし、JICAのスタッフを事務局に派遣したり、バンコクで2011年開催の第2回フォーラムをJICAが共催するなど、この課題に高い政治的コミットメントを示してきた。また、2011年、GHWAの理事会議長には厚生労働省の国際保健担当審議官(Assistant Minister for Global Health, MHLW)、麦谷真里氏が就任した。日本は、保健人材問題への高い政治的コミットメントを生かし、保健人材問題を国際保健の中で主流化していくためのリーダーシップをとるべきである。また、保健人材強化に関する支援について、これが確実に途上国の公共セクターにおける保健人材の強化に繋がるような戦略作りをリードすべきである。

課題1 提言

  1. 日本は、保健人材の問題を国際保健において主流化することに、政治的なリーダーシップを果たすべきである。これについては、以下の事項を含む。
    1. 途上国での保健人材強化に関する国際的なターゲットの設定
    2. 保健人材強化を実現するための、資金的裏づけのある戦略の設定
  2. 日本は、保健人材の問題に関する国際的な戦略作りにおいて、以下のことを念頭に置くべきである。
    1. 保健人材強化が単に育成のみに終わるのではなく、「育成」→「雇用」→「定着」というサイクルを形成し、当事国においてより多くの質の高い保健人材が公共保健サービスセクターに定着することを目標とする。
    2. また、保健人材の育成→雇用→定着をひとつのプロセスとしてマネジメントできるような高いレベルの能力を持つ国家・地方の保健行政の確立も戦略に組み入れる。

課題2:国際保健への援助を大幅に増額せよ

保健人材支援において我が国が直面する最初の課題は、国際保健への二国間援助が少ないことである。日本の2009年の国際保健への二国間援助は2億7083万ドルであるが、同年、英国は国際保健に9億6719万ドル、ドイツは4億7985万ドル、ノルウェーは2億5249万ドルを計上している。日本は、開発援助において国際保健に高い優先度を与えると宣言しているにもかかわらず、二国間援助の額は他国と比較してかなり少ないのが現状である。また、この二国間援助において、特定の資金を保健人材や保健システム強化に充てるといったことは行われていない。

課題2 提言

  1. 日本は、保健に関する援助について、日本の経済規模に適合的な額の援助を行うことが必要である。少なくとも、日本の保健への二国間援助の三倍増、多国間援助の二倍増を実現する必要がある。
  2. 日本は、保健医療人材支援に関して、金額を明示した資金的コミットメントを行う必要がある。

課題3:保健人材問題への大胆なビジョンと包括的な戦略を持て

日本は以前から、保健医療従事者の育成と保健システム強化がMDGs達成を始めとする途上国の保健向上にとって必須であると主張し、また、保健に関する開発援助の中で、この二つの課題を主要課題とみなしてきた。しかし、不思議なことに、日本は必ずしもこの「認識」を、包括的な戦略の形成や、人材育成や保健システム形成への適正な規模と持続性を持つ資金拠出の実現へと発展させてこなかった。

1994年、日本は保健に関する最初の分野別政策文書である「人口・エイズ分野における地球規模課題イニシアティブ」を発表、7年間で30億ドルの拠出を誓約した。その後、日本は2000年に「沖縄感染症対策イニシアティブ」、2005年に「保健と開発イニシアティブ」を発表。これらの文書は、いずれも日本の保健援助政策をまとめた文書であり、保健システム強化、保健人材の育成・定着はその要素として言及されているが、本来、戦略文書に必要な、目標、資金、ターゲット国、方法論などは書きこまれておらず、人材の育成と定着、能力の強化に関する戦略文書としては不十分なものであった。

2007年以降、国際保健政策のあり方に関する論争が国際的に行われ、保健システム強化と保健人材の育成・定着の必要性がより強く注目されるようになった。その結果、2008年のG8洞爺湖サミットにおいて発表された「洞爺湖国際保健行動指針」には、国際保健人材の育成と定着の重要性が盛り込まれた。2010年、日本が「保健と開発イニシアティブ」の後継となる国際保健援助のための戦略文書として発表した「国際保健政策2011-2015」は、この行動指針の延長上で、保健システムの強化、そのなかでも重要な保健人材の育成と定着に関する具体的な戦略が明記されるものと期待された。しかし、その期待は十分に実を結ばなかった。

日本の今後5年間の保健に関する開発援助政策を定めた「国際保健政策2011-2015」は、妊産婦・新生児・児童の保健、主要な感染症対策、および国際保健上の緊急事態への貢献の3つを柱としている。そのうち、妊産婦・新生児・児童の保健はこの政策の主要な軸となっているが、その焦点はとくに新生児の死亡率の削減におかれており、そのために、コミュニティ・ヘルスと施設ケアを効果的に統合するモデルとして、「EMBRACE(Ensure Mothers and Babies Regular Access to Care:母親と新生児のケアへの恒常的アクセス確立)」モデルが推奨されている。保健人材の育成・定着は、このモデルに付随的な形で含まれているが、残念なことに、国際的な保健人材の不足や質的な向上の必要性はフォーカスされていない。また、科学的な証拠に基づく保健施策が強調される一方、保健人材の育成・定着に必要なインプット・ベースの数値目標については看過されている。

「国際保健政策2011-15」の、保健人材支援に関係する問題点は以下の3つである。

 まず、日本2008年のGHWAの第1回世界フォーラム(カンパラ)以降、GHWAの運営への積極的な参加など、HRHに関するグローバルな取り組みに一定の関与を行って来たが、この「政策」には、HRHに関するグローバルな取り組みへの日本のコミットメントについて明記されていない。

 第2に、日本は国際保健への取り組みにおいて常に「人づくり」を重視してきたと主張しているが、これについて、2006年のGHWA設立以降のHRHの新しいグローバル・トレンド下において、どのようにこれまでの日本の努力を再定義し、発展させていくのかという観点が欠落している。一方、母子保健、とくに「EMBRACE MODEL」が、これまでの日本の支援との連続性を十分には示さないままに導入され、この政策における中核の役割を与えられているが、このモデルの実現が旧来の「人づくり」、現代のHRHとどう関係しているのか明記されていない。

 第3に、日本はJICAを中心に、HRHと関係して、a) 途上国政府とこれまで構築した信頼関係に基づいて、中央政府に専門家を派遣し、保健人材国家計画などの立案支援や実施支援を行ってきた。b) 保健人材のマネジメントを含む保健政策の統一的な運営に不可欠な地方行政官の育成・訓練などを行ってきた。さらに、c) 日本企業で行われてきたQC運動における「カイゼン」の考え方を導入した「5S-TQM」(Total Quality Management)を、スリ・ランカを皮切りに各国で導入し、保健システム強化、保健人材強化に関連する重要な支援として多額の資金・人材を導入して展開している。ところが、「政策」には、こうしたJICAの取り組みが触れられていない。多額の資金を導入して展開されているこれらの事業は、当然、「政策」において言及され、政策上の位置づけを得られていなければならないはずである。

一方、こうした問題は、政策決定者である外務省のみの責任ではない。JICAも、自らが重要だと考えて実施している施策が「いかに重要であるのか」について、国際社会に対しても、関連ステークホルダーに対しても説明を十分に行ってこなかったのではないかと考えられる。

例えば、5S-TQMについては、日本の企業の生産性向上運動や、日本文化に由来するということは強く主張されるが、そもそも、この5S-TQMがHRHの何とどのように関係しているのか、これを行うことによって当事国のHRH問題がどう改善されるのかについて、グローバルなピクチャーに基づく説明がされていない。その結果、5S-TQMは現場においては、棚やファイルなど書類や物資の整理のために必要な機材の導入のインセンティブとして理解されることが多い。

このように、日本においては、国際保健に関わる諸政府機関(外務省、JICA、厚生労働省)が十分な連携をすることなくバラバラに政策の形成や実施を行って来た。また、お互いの役割分担についても、それぞれの能力や現実の力関係を適切に反映するのではなく、むしろ行政法上の関係に基づいて建前的に行われてきたために、国際的に打ち出される政策と現実に行われる援助との分裂が生まれてしまっている。

課題4:多様な関係者による政策形成メカニズムを形成し、「人間の安全保障」に基づいた政策を策定せよ

日本は保健人材の育成支援を、保健に関わる開発援助の優先課題とすると明確に示している。この意欲を、現場における現実のインパクトへと発展させるためには、具体的で測定可能かつ包括的な目的と、証拠に基づいた技術的なアプローチを設定することからはじめる必要がある。しかし、残念ながら、日本には大胆なビジョンと包括的な政策が欠けているため、日本の保健援助への支援のあり方は不透明に終わっている。

日本には、包括的な政策だけでなく、包括的な政策形成のための仕組みが欠けている。このことについては、前述の「課題3」の後半でも多少言及したが、ここで、より詳細に触れたい。

日本の国際保健政策の策定を主に担っているのは、外務省国際協力局の地球規模課題審議官組織に設けられている地球規模課題総括課である。独立行政法人国際協力機構(JICA)は、援助の実施機関として位置づけられているが、現場においてインパクトを生むための効果的な政策作りのパートナーとしての位置づけは不十分である。また、現地で活動する専門家の知見を生かす回路も不十分である。外務省は市民社会との間に定期的な対話のための協議会を設けているが、市民社会からのインプットはしばしば薄められる。国際保健の研究機関や研究者は、JICAや市民社会よりも高い影響力を持つこともあるが、保健政策の形成に中心的かつ主体的な役割を担うことは難しい。結果として、国際保健政策の策定は、期せずして外務省によるトップ・ダウンのアプローチとなってしまい、策定の後、JICAや市民社会などに与えられる形となっている。これでは、「実施機関」として位置づけられる側は、国際保健政策にオーナーシップを感じることができない。

また、「人間の安全保障」は日本の保健援助の基礎を成していることになっているが、この原則は、日本の国際保健政策に効果的に反映されていない。実際には、現場の実施レベルにおいては日本の援助は数々の好実践例として結晶しており、それが日本の援助の比較優位性を形作っている。しかし、これらの好実践例を現場のプロジェクトレベルから国レベルでの保健システム・保健人材強化に発展させていくには、これらの好実践例からの教訓が、日本の保健政策の中心に来なければならないのである。

課題3・4 提言

  1. 包括的な政策形成のプロセスに、多様な関係者が意味のある形で参加することを保障することが必要である。
    全ての関係者が参画して、包括的な政策を形成することが必要である。外務省、JICA、保健研究機関や研究者、市民社会を含むマルチ・ステークホルダーの委員会を設置し、保健人材問題に関わる政策の形成・実施・評価を担う必要がある。この委員会では、日本の保健援助の戦略の策定→実施→評価→新たな戦略、というサイクルを全体としてフォローしていく必要がある。この委員会は、審議会としてではなく、政策形成・実施・評価のためのチームとして機能する必要がある。
  2. 大胆なビジョンと包括的な政策を、以下の観点に基づいて形成することが必要である。
    日本は、途上国の保健人材強化について、大胆なビジョンに基づく包括的な戦略を形成すべきである。この戦略は、以下の点を踏まえて策定されるべきである。
    • 各国のニーズを踏まえる
    • 保健人材強化支援における日本の比較優位性はどこにあるかを把握する
    • 国際的な保健人材強化支援において十分に行われていないことは何かを把握する
    • 日本の援助の根幹をなす考え方である「人間の安全保障」に基づき、日本が行うべきことは何かを把握する
    • 当事国のオーナーシップの尊重と他ドナーとの連携という観点から、何が必要かを把握する
    以下は上記の詳細である。
    ★各国のニーズを踏まえる
    我が国の保健人材支援政策は、以下の基本的な認識に基づいて制定される必要がある。
    • 途上国の保健危機は、保健人材の不足を含めた、保健システムの脆弱性によるものであり、保健システム強化、特に保健人材不足の解消が必要であること。
    • 世界の人々がいつ、どこでも、適切な基礎的保健サービスにアクセスし、また、自らのコミュニティの保健向上のための努力に主体的に参加できるようにすることが、世界の人権と民主主義の確立の観点からも、人間の安全保障の観点からも必要であること。
    • 途上国における基礎的な保健アクセスは、途上国自身のオーナーシップに基づき、途上国の政府による国民へのプロテクションと、国民自らによるエンパワーメントによって保健システムを持続可能なものとして形成することで達成されるべきであり、援助の役割は、それに向けた途上国の政府およびコミュニティの努力を資金的・技術的に支援するものでなければならないこと。
    ★保健人材強化支援における日本の比較優位性はどこにあるかを把握する
    日本はこれまでのプロジェクト・ベースの好実践例、および他ドナーの援助と日本の旧来の援助との比較において、自らの比較優位性を把握し、その分野を重点課題として援助戦略を構築すべきである。この比較優位性に就いては、以下のものが含まれる。
    • 地方政府の保健行政能力の強化。地方における各級・各種の保健サービスやコミュニティでの保健への対応を、オーナーシップを持って統合し、すべての住民が適切な保健サービスを受けられるような保健行政マネジメント能力を涵養すること。
    • 中央政府との信頼関係のもとに、中央政府が、保健システム強化、保健人材強化に関して、国の文脈にあった国家戦略・計画を策定することを支援し、また、これを地方政府において適切に実施させることを支援する。またこの実施を適切に行うために我が国の二国間援助を活用すること。
    ★日本の援助の根幹をなす考え方である「人間の安全保障」に基づき、日本が行うべきことは何かを把握する
    保健人材支援は、我が国の外交および援助政策のひとつの根幹である「人間の安全保障」という概念に基づいて行われる必要がある。日本が「現在出来る・行っている支援」のみならず、我が国の援助の柱である「人間の安全保障」に照らして、本来行うべきことが必要な保健人材強化のための援助を把握し、これを戦略化する。「人間の安全保障」が、人々の安全を保障する政府の「プロテクション」と、人々が自ら健康を守る「エンパワーメント」によって構成されることに鑑みると、ここには以下の課題が含まれる。
    • 当事国政府が自ら国民の保健における「人間の安全保障」を持続的に提供出来るような、国レベルの公共の保健システム形成とそのための保健人材の強化。また、当事国政府がこれをオーナーシップを持って実現できるような政治的リーダーシップの形成の支援。途上国において保健指標を向上させることができた国のほとんどが、保健における高い政治的リーダーシップを有していることを考慮すれば、保健への高次の政治的リーダーシップの形成を援助国が支援する方法論の開発は急務である。
    • 地域の特性に適合的な方法で、コミュニティ・レベルでの保健に関する対応(community response for health)を支援するとともに、第1次医療機関とコミュニティ・ヘルスの連携を強化し、地域における保健負荷をコミュニティと医療ケアが適切に配分できるような地域保健の仕組みを形成する。
    • 「人間の安全保障」の観点から言えば、紛争地はいうに及ばず、僻地で公共医療に携わる末端の病院やコミュニティ・ヘルス・センターの保健従事者、また、コミュニティで保健に従事するコミュニティ・ヘルス・ワーカーなどの安全が保障される必要がある。「労働環境の改善」は、保健従事者の定着において最も重要な要素であるが、そのなかでも、「安全」は基本的な要素として重視されるべきである。日本は「人間の安全保障」を援助の柱として掲げているところ、「保健医療従事者のプロテクション」に関する多国間・二国間の援助イニシアティブを立ち上げるといったことも、政策上の一アイデアとして考えられる。
    • 途上国の公共セクターにおける保健医療従事者の仕事は崇高であるが、途上国においても、これらの仕事の崇高さが必ずしも理解されておらず、むしろ、低賃金の過酷な仕事であるという印象が強い。保健医療従事者の労働環境を改善するとともに、保健医療従事者が国家・社会の経緯に価する崇高な仕事であるという印象を社会的に定着させる必要がある。途上国で活躍する保健人材への顕彰や、途上国で普及している映画・ドラマ(サハラ以南アフリカではナイジェリアの「ノリウッド」、他の途上国で言えばメキシコ、エジプトなど)で保健人材のストーリーを取り上げるなどし、途上国の保健医療に関する敬意を高め、「自分も途上国の現場で保健医療に従事したい」と希望する若者層をより多く生み出す文化的なイニシアティブが必要である。
  3. 日本は、これらの優先課題を、プロジェクト・ベースからプログラム・ベースで実施できるように転換していく必要がある。そのためには、以下のことが必要である。
    シナジーの最大化:既存のプロジェクト実施のためのスキーム(無償資金協力、技術協力、草の根・人間の安全保障無償、青年海外協力隊の派遣等)について、これらが相乗効果を持つように、プログラム化することが必要である。
    プログラム目標の達成のためのプロジェクト形成:また、新規の案件形成については、プログラムを形成した上で、上記のスキームを柔軟に活用して、プログラムの目標を達成するためにプロジェクトを形成するようにする必要がある。

課題5:二国間援助の仕組みを柔軟化せよ

日本の二国間援助は、課題2で見たとおり資金が相対的に少ないだけでなく、資金活用の柔軟性も低い。そのため、保健人材支援にも十分な活用が出来ていない。

保健の援助の金額が少ないだけでなく、これらの資金は、硬直的にデザインされた特定の「スキーム」に分断されている。無償資金協力、技術協力プロジェクト、草の根・人間の安全保障無償、青年海外協力隊の派遣などが、保健人材の育成・定着に活用できる「スキーム」である。プロジェクトはこれらの「スキーム」に従って案件形成されるため、お互いに連携して相乗効果を出すことも難しい。

プロジェクト案件形成を当該国の国家計画や日本の国別援助計画に従って行い、プログラム化する試みは行われているが、十分な効果を上げていない。プログラム化が進んでいない要因としては、実施機関であるJICAの国レベルの事務所の人材が不足し、保健プログラムのマネジメントを専門に行う専門家が配置されていない、または、配置されていても、国内向けの「スキーム」の会計報告などに忙殺され、実施に十分に力を入れられていないことが挙げられる。また、これらの「スキーム」の多くは、政府間の契約に基づいて行われるため、日本の援助は、現地NGOに直接資金を拠出することが出来ない。

当事国の国家予算が不足している状況では、当事国の公共保健サービスに十分な人材を確保するためには、援助資金を政府予算に直接組み入れることがひとつの有効な手段である。セクター財政支援やプール・ファンドの活用は、保健医療従事者の給与支援や卒前教育などにインパクトをもたらすのに有効であるが、日本はこうした方法での資金投入を行っていない。

一方、プログラム・レベルでの展開においては、当事国政府との連携を強化するとともに、当事国の国レベルにおいて、展開している各国の援助機関、国際機関、有力なNGO、現地の市民社会などとの連携を強化し、お互いの強みと弱み、問題点などを把握して協調して支援を構築する必要がある。実際、国レベルの事務所においても、他ドナーや当事国の市民社会、日本のNGOの展開などについて十分な知見がない場合が多い。このために、JICAの国レベルの事務所において、ドナーや市民社会などのステークホルダーとの連携を中心的に担う人材が増強される必要がある。

課題5 提言

  1. 保健人材支援に向けた支援と、疾病対策のためのプロジェクトのための支援を統合し、強化する必要がある。
  2. 日本の援助スキームを、もっとも需要があり、もっとも効果的に活用されるところに投入できるように柔軟性を拡大させることが必要である。例えば、現地NGOに対する直接的な支援が出来るスキームを設ける必要がある。
  3. 保健人材の訓練と雇用・定着のためのセクター財政支援や直接財政支援を積極的に行うようにする必要がある。
  4. JICA各国事務所において、国際保健に携わる人材を増やすべきである。また、JICAがプロジェクト型支援からプログラム型支援に移行する上で、各国事務所において、プログラム・マネジメントやドナー調整に責任を持つ専門家がより多く配置されるべきである。これにより、現地で展開する他国のドナー機関や国際機関、現地市民社会、日本のNGOと、国レベルでの連携の強化を担うことが必要である。

課題6:保健人材支援のモニタリング評価を充実させよ

「国際保健政策2011-2015」において、日本は、国際保健に関わる援助において、科学的な証拠に基づく援助の実現のため、確立されたアウトカム・ベースの指標を活用することを掲げている。

アウトカム・ベースの指標による評価を重視すること自体は誤っていない。しかし、当事国における保健人材の強化が保健システムの強化につながり、これが現在確立されているアウトカム・ベースの指標(たとえば、乳児死亡率やHIV陽性率の低下、妊産婦死亡率の低下など)にインパクトを及ぼすには長い時間がかかる。保健人材の強化をエビデンス・ベースで行うには、アウトカム・ベースの指標のみでは不十分であり、以下のことが必要である。

(1) インプット・ベースでの達成ターゲットの設定

(2) ターゲットの達成に向けたプロセスの進捗をはかるプロセス指標の開発・設定

(3) 人数のみならず、a) 能力、b) モティベーションの高さ、などを把握する指標の開発・設定

(1)については、日本はTICADでの「10万人の保健医療従事者の訓練」という誓約で、残念な「悲喜劇」を経験している。

日本は、2008年に開催した第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)で発表した「横浜行動計画」で、アフリカにおける「1000ヵ所の保健医療施設の改善」と「10万人の保健医療従事者の訓練」を誓約した。これは、GHWAの第1回フォーラムの2ヵ月後であり、また、米国がこの直後の7月に「途上国で専門的保健医療従事者を新たに14万人育成する」(training and retaining 140000 new health care professionals and paraprofessionals)とする誓約を行ったことから、具体的な数値目標を掲げての保健医療従事者増員への取り組みとして世界的にも注目された。

しかし、実際には、この誓約は、実施機関であるJICAが行いうる研修の人数的な能力を考慮せず、また、資金的な裏づけもなく、各機関の合意形成も不十分なままで行われた。さらに、この誓約は、アフリカにおいて、どのような種類の保健医療従事者を何について訓練し、アフリカでの保健人材不足の解消にどう貢献するのかといった詳細な戦略がないまま、数字が一人歩きする形で策定された。その結果、この誓約は、政策機関である外務省、実施機関であるJICA双方にとって、意味のある形で実現しようという強い意思やオーナーシップを持ちうるものになっていないのである。結果として、この誓約は浮遊し、ある種のモラルハザードと共に「解決」されることとなる。

ここで誓約されたのは、保健医療従事者の「訓練」であり、その中身や期間には限定はついていなかった。そのため、ODAによって、アフリカ人を対象に行われる、保健医療に関係した全ての研修について、期間や内容を問わず、人数を加算して「直接受益者」数を算出し、さらに、保健指導者の研修については、その指導者が研修後、本国などで別の人材に対して指導を行うと予測されることから、研修を受けた保健指導者(直接受益者)の数に掛け算をして「間接受益者」数を推測し、これをさらに加算して、日本が「訓練」した保健医療従事者数を算出したのである。その結果、日本はわずか2年で、この誓約を達成したことになった。

これは、日本がHRH問題にどう貢献するか、関係機関で合意された明確な戦略がないままに、数字だけを先行させて誓約を行ったことがもたらした「悲喜劇」である。世界的に注目された誓約は、形式的には「達成」された。しかし、この誓約の「達成」は、アフリカの保健医療従事者不足を解消する上で、具体的な貢献をもたらしていない。もしくは、その効果は測定不能である。我々は、この「悲喜劇」を教訓にしなければならない。それは、保健医療従事者問題に関する誓約は、(1)より具体的で明確なターゲットの設定、(2)ターゲットを実現するための資金的コミットメント、(3)このターゲットが実際に保健医療従事者問題の解決にとって意味を持つ具体的な内容を含んだ戦略の形成、を伴ったものとして行われなければならない、ということである。とくに、保健人材強化におけるターゲットについては、途上国の公的セクターにおける保健人材の増員および質の向上に具体的に資するものでなければならない。即ち、卒前教育(pre-service training)による育成や、現任教育(in-service training)のみならず、雇用と定着に関して、具体的なインパクトのある形で設定される必要がある。また、ターゲットの達成に関するモニタリング・評価の方法は、透明性のある形で公開される必要がある。

また(3)については、保健人材強化について、単に人材のみが増えるのではなく、その人材が一定の能力と業務に対する動機付けを持つ、ということが必要である。これについては、他分野(教育、企業の社員評価など)で活用されている、能力や動機付けに関する様々な指標と評価方法などを検討し、保健人材強化に適用可能かどうか調査する必要がある。

また、このようにして開発された評価指標などについては、国際的な承認を受け、世界的に活用されるようにする必要がある。これについて、GHWAなどの国際機関や、「ランセット」などの保健専門誌などを活用し、国際的な認知を確立していくべきである。

課題6 提言

  1. 国レベルでの保健システムと保健人材の持続性について評価することができる指標を開発し、採用することが必要である。
    • アウトカム・ベースの指標に加えて、インプット・ベースのターゲットを採用することが必要である。(例:X人の新しい保健医療従事者を育成する)
    • ターゲットの進捗状況を測るための指標を開発し採用する必要がある。
    • 保健医療従事者や保健行政官などの知識やモティベーションのレベルなど、定性的な課題に関する評価を行えるような指標を開発し採用する必要がある。
  2. HRH問題に関するターゲットの設定については、以下の内容を含んだものとする必要がある。
    1. ターゲットは、途上国の公共セクターにおける保健人材の増員および質の向上に具体的に資する内容で、数値目標を含め、具体的に設定される必要がある。卒前教育や現任教育のみならず、雇用と定着を含むものである必要がある。
    2. ターゲットの設定は、ターゲットを実現するための資金的なコミットメント、および、ターゲットを実現しうる戦略の形成を伴う必要がある。
    3. モニタリング・評価の方法は公開される必要がある。

課題7:日本の保健医療を担う人材を国内で調達するシステムを維持・発展させよ

途上国の保健人材不足の大きな原因は、途上国で育成された保健人材の高所得国や民間セクターへの流出、いわば、先進国による途上国の人材搾取である。日本は、これまで言語や制度の壁により、日本からの人材流出および途上国からの人材の流入のいずれも、他国に比べ規模が少なく、途上国の人材に依存せずに保健システムを維持してきた。

しかし、日本の高齢化が進むにつれて、特に看護師や介護労働者などについて、途上国からの人材受け入れが拡大している。この動きは、日本側の介護人材のニーズが拡大するにつれて、急速に拡大していく可能性がある。また、東南アジアや環太平洋諸国との自由貿易協定や経済連携協定などの進展によって加速される可能性がある

課題7 提言

  1. 日本は、途上国の保健人材への依存度が低く、他の途上国の人材の搾取の程度が他の高所得国に比べて低かったというこれまでのあり方を評価し、国内で必要な保健人材需要はなるべく国内で賄う形で、国内保健人材不足に対処すべきである。
  2. これについては、WHOの「保健人材の国際的リクルートに関する世界的実施規範」(Global Code of Practice on the international recruitment of health personnel)を順守する必要がある。

報告書について

途上国の保健人材支援に関する日本と米国の役割
日米市民社会による政策レビュー

2011年3月
編集・発行 特定非営利活動法人 アフリカ日本協議会
〒110-0015 東京都台東区東上野1-20-6丸幸ビル2F
電話03-3834-6902, FAX 03-3834-6903
URL http://www.ajf.gr.jp/
編集 稲場雅紀
copy_right_2011 Africa Japan Forum
本書は、(財)国際交流基金日米センターの公募助成プログラムによって行われた研究の成果物として作成されました。本研究は、(特活)アフリカ日本協議会(日本)およびHealth Workforce Advocacy Initiative (HWAI): (米国、事務局:Physicians for Human Rights)が共同して行いました。

▲このページのTOPへ

特定非営利活動法人アフリカ日本協議会 (Africa Japan Forum)

〒110-0015 東京都台東区東上野 1-20-6 丸幸ビル3階
TEL:03-3834-6902 FAX:03-3834-6903 E-mail:info@ajf.gr.jp

Englishプライバシー・ポリシーサイトマップお問い合わせ
Copyright© Africa Japan Forum. All Rights Reserved.